寺院が管理をしている霊園のメリットブログ:16-9-15
私の父は近所の娘から
「調子乗りのおっちゃん」と呼ばれている。
父は出勤時に
登校中の児童にむかっておどけてみせる。
それが娘達のツボにはまるらしく、
みんな笑い転げるのだ。
私は、娘の頃
恥ずかしくて仕方なかった。
ある日、道の角を曲がると
「ぐわあぁぁ」と叫びながら
倒れる父と目が合った。
父の目からは切羽詰った様子が伺え、
私はうろたえた。
しかしふと前を見ると
戦隊もののおもちゃを手にした娘たちがいる。
父は戦隊ごっこの悪役をしていたのだ。
父の切羽詰った様子は、
いるはずのないムスメと目が合ったこと、
しかしクライマックスの悪役が倒れるシーンを
全うしなければいけないという責任感の挟間から生まれたようだ。
私が大人になっても
父は喜々として近所の娘と遊んでいた。
私は父の行動を諦めていたが、
やめて欲しい気持ちはおさまらなかった。
そんな父が癌の告知を受けた。
本人は手術を拒んだが、幸い転移もなかったので
癌を摘出すれば短期間で治療可能、再発も無いとのことだった。
家族全員で摘出を勧め、
父は文字通り泣く泣く承諾した。
陽気な父が泣くのを見たのは初めてだった。
手術の日、私は施術後に立ち会えた。
運ばれてきた父は薄く麻酔が効き、目は半開き…
その父の前で主治医から成功した旨が伝えられた。
ふと父に目をやると、信じられない光景があった。
麻酔で眠っているはずの父の手がいつの間にか布から出て、
ピースサインになっていたのだ。
その場は笑いに包まれた。
父はいつでもどこでも
「調子乗りのおっちゃん」だった。
意識がほぼ無かろうが、
家族に大丈夫だと伝えようとして動いた手…
その温かさに笑っていた私の目から涙がこぼれた。